この記事では、高圧ガス保安法上の保安距離と、その算出方法について解説します。
保安距離とは
高圧ガスの保安距離とは、高圧ガス設備を設置する際に、周囲にある保安物件(重要施設や民家等)に対する危害を防止するために確保すべき距離のことです。
高圧ガス設備の事故が発生した場合、高圧ガスが漏れ出すことで、火災や爆発などの重大な事故を引き起こす可能性があります。保安距離を確保することで、万が一事故が発生した場合でも、保安物件への被害を最小限に抑えることができます。
高圧ガス保安法におけるコンビ則では、第1種保安物件と第2種保安物件(保安のための宿直施設を除く)をまとめて保安物件とし、ガスの種類により製造施設からの保安距離を定めています。
ちなみに第一種保安物件は、人命に関わる危険性が高く、また、社会生活への影響が大きいと判断される物件です。具体的には、以下のものが挙げられます。
- 学校、病院、劇場、百貨店など、不特定多数の人が利用する施設
- 鉄道、道路、港湾などの交通の要衝
- 上下水道施設、電気供給施設など、社会生活に不可欠なインフラ
- 文化財、歴史的建造物
また、第二種保安物件は、第一種保安物件に比べて、人命に関わる危険性や社会生活への影響は小さいと判断される物件です。具体的には、以下のものが挙げられます。
- 一般の住宅
- 工場、倉庫
- 公園、緑地
可燃性ガス製造施設の保安距離
最も重大な災害として爆発を想定し、事業所外の第三者に人的・物的被害を出さないことを前提として、高圧ガス製造施設を新設する場合は、その貯蔵設備および処理設備の外面から当該事業所の境界線に対して50 m、または次の式で計算される距離のいずれか大きい距離以上を取らなければなりません。(コンビナート等保安規則第 5条第 1項第 2,3号に基づく)
X=0.576×∛KW
X:有しなければならない距離 [m]
K:ガスの種類および常用の温度の区分に応じて定める値を1000倍した値
(爆発の影響度を表現した係数のイメージです)
W:ガスの停滞量 [t]
具体的には、上記の式で計算した結果がX=100 mであった場合、保安距離は100 m、計算結果がX=30 mとなった場合は保安距離は50 mとなります。
また、一つの製造施設内で複数の可燃性ガスの取り扱いがある場合、製造施設全体でのKWは以下のように計算され、その結果に基づいて保安距離を計算します。
KWtotal=K1W1 + K2W2 +・・・
毒性ガスの保安距離
毒性ガスについては、まず製造施設の外面から事業所境界線まで20 mの距離を取る必要があります。また、製造施設から保安物件までの保安距離について以下の計算式で算出される距離以上の距離を取る必要があります。(コンビナート等保安規則第 5条第 1項第 4号に基づく)
0 ≦ Q < 1,000の時 X= 70 + 4√10
1,000 ≦ Q < 10,000の時 X= 70 + 2/5 √Q
10,000≦ Q X= 110
X:有しなければならない距離 [m]
Q:処理量 [Nm3/D]
高圧ガス保安法において、「停滞量」と「処理量」を区別して理解しなければならないことに注意してください。
なお、対象のガスが可燃性かつ毒性ガスに該当する場合は、可燃性ガスとしてとるべき保安距離と、毒性ガスとしてとるべき保安距離の大きい方を採用します。
その他のガスの保安距離
可燃性ガスの最小距離とされている50 mを、貯蔵設備および処理設備の外面から保安物件に対して確保する必要があります。(ここでいう「その他のガス」は高圧ガス保安法上の定義に基づきます。)
最後に
高圧ガス設備の設置者は、高圧ガス保安法に基づいて、保安距離を遵守する必要があります。保安距離を遵守しない場合は、罰則の対象となる場合があります。高圧ガス設備の設置にあたっては、必ず保安距離を事前に確認し、適切な距離を保って設置するようにしましょう。
ご安全に!
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