高温環境で使用される金属材料の寿命予測は、発電所や化学プラント、航空機エンジンなど多くの産業分野で重要な課題です。特に「クリープ破壊」と呼ばれる現象は、長期間にわたって高温・高応力にさらされた金属材料に起こる致命的な破壊メカニズムです。
このクリープ破壊を予測する重要なツールとして、「ラーソンミラー線図」があります。この記事では、ラーソンミラー線図とは何か、その読み方や活用法について、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
ラーソンミラー線図とは
ラーソンミラー線図は、クリープ破壊という現象を予測するために開発されたツールです。そのため、ラーソンミラー線図を理解するためには、その背景にある「クリープ破壊」という現象を深く理解することが重要です。クリープ破壊とは、材料が高温下で持続的な応力を受けることにより、時間とともに徐々に変形(クリープ変形)が進行し、最終的に破断に至る現象です 。別記事でより詳細に解説していますので、そちらを読んで頂けると、体系的に理解することができます。
ラーソンミラー線図は、様々な高温条件下で、試験片に一定の応力を加え続け、破断するまでの時間(破断時間)を測定する、クリープ破断試験の結果に基づいて作成されており、材料が特定の温度と応力条件下で、どのくらいの時間でクリープ破壊に至るかの関係性を示しています。試験結果から得られた破断時間と試験温度のデータを、ラーソンミラーパラメータ(LMP)の式を用いて整理し、応力とLMPの関係としてグラフにプロットすることで、ラーソンミラー線図(マスターカーブ)が得られます 。

ここで、LMPは次の式で表され、それぞれの変数は以下の意味を持ちます。
P = T (C + log tr)
- T: 絶対温度(K)。温度が高いほど、クリープの進行は速くなります。
- tr: 破断時間(hr)。材料が破断するまでの時間を示します。
- C: 材料定数。これは材料固有の値であり、実験的に求められます。異なる材料は異なるクリープ抵抗を持つため、この定数Cの値も異なります。ただ、多くの場合は20前後の数値をとります。
ラーソンミラー線図の読み方
ラーソンミラー線図の使い方は主に2つです。1つは、使用条件での破断に至るまでの時間を求めること、2つめは、設計条件から許容応力を求めることです。それぞれの手順を紹介します。
- 破断時間を予測する場合
- 使用する材料のラーソンミラー線図を入手します。
- 実際の使用条件下での運転温度(T)と応力(σ)を把握します。
- 線図の縦軸で、該当する応力の値を見つけます。
- その応力の値に対応する横軸のラーソンミラーパラメータ(LMP)の値を読み取ります。
- 読み取ったLMPの値と、既知の運転温度(T)、そしてその材料の材料定数(C)を用いて、ラーソンミラーパラメータの式 P = T (C + log tr) を解き、破断時間(tr)を計算します。
- 許容応力を予測する場合
- 使用する材料のラーソンミラー線図を入手します。
- 設計寿命(tr)と運転温度(T)を決定します。
- 材料の材料定数(C)を用いて、ラーソンミラーパラメータ(LMP)の値を計算します。
- 計算したLMPの値に対応する横軸の位置を見つけます。
- そのLMPの値に対応する縦軸の応力の値を読み取ります。この値が、設計寿命内で材料が破断しない最大の許容応力となります。
具体的な例として、上で紹介したラーソンミラー線図から、破断時間を求めてみましょう。
ある特定の鋼合金製の部品が、800℃(1073 K)の運転温度で100 MPaの一定の引張応力を受けているとします。この材料のラーソンミラー定数(C)が20であると仮定します。ラーソンミラー線図において、100 MPaの応力に対応するLMPの値が24,000 Kであったとします。このLMPの値を用いて、破断時間(tr)を計算することができます。
24,000 = 1073 * (20 + log tr)
24000 / 1073 = 20 + log tr
22.37 = 20 + log tr
log tr = 2.37
tr = 10^2.37 ≈ 232 時間
この計算例から、この鋼合金は800℃で100 MPaの応力を受け続けた場合、約232時間でクリープ破壊に至ると予測できます。また、評価時点で、実際の運転時間が100時間であれば、余寿命は132時間であることがわかります。
最後に
本稿では、高温環境下で使用される材料の寿命予測に不可欠なツールであるラーソンミラー線図について、その基本的な概念から読み方、そしてクリープ破壊との関連性までを解説しました。ラーソンミラー線図は、温度と時間の複合的な影響をラーソンミラーパラメータという一つの指標で表すことで、短期間の試験データから長期的なクリープ破壊挙動を予測することを可能にします。
ラーソンミラー線図を理解し、適切に活用することで、材料選定、部品設計、そして既存設備の余寿命評価において、より安全で信頼性の高い判断を下すことができます。
ご安全に!
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