金属やプラスチックなどの材料が、高温環境で長時間使用されると、徐々に変形し、最終的には破壊してしまう現象があります。この現象を「クリープ破壊」と呼びます。
高温のボイラーや発電プラント、自動車エンジンなどで使われる部品は、このクリープ破壊と常に向き合っています。設計者や技術者にとって、クリープ破壊を理解し、適切に対策を講じることは、製品の安全性と信頼性を確保するための必須知識です。
この記事では、クリープ破壊の基本的な概念を初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
概要
通常の材料は、降伏点以下の応力であれば永久変形を起こさないとされています。しかし、高温環境下では、降伏点以下の応力でも時間の経過とともに変形が進み、最終的に破壊します。これがクリープ破壊の特徴です。
上述の通り、クリープ破壊は材料が通常の設計強度よりも低い応力で、しかも時間の経過とともに徐々に進行するため、予期せぬ事故につながる可能性があります 。特に、高温下で使用される機械や構造物においては、クリープによる変形や破壊が製品の寿命を左右する重要な要因となります 。例えば、航空機のジェットエンジン部品や、発電プラントの高温配管などは、常に高温と高い応力にさらされており、クリープ破壊のリスクが常に存在します 。
まとめると、クリープ破壊の原因は、ある材料が、応力のかかった状態で、特定の環境に長時間曝されることによって起きる現象といえます。
クリープ曲線
クリープ現象を時間と歪みの関係で表したグラフを「クリープ曲線」と呼びます 。典型的なクリープ曲線は、以下の3つの段階に分けられます。

一次クリープ(遷移クリープ)
一次クリープは、最初の段階で、比較的急速な歪みの増加が見られます 。しかし、時間の経過とともに歪みの増加速度は徐々に減少していきます 。これは、材料内部の転位密度が増加し、加工硬化が進むためと考えられています 。
二次クリープ(定常クリープ)
二次クリープは、歪み速度がほぼ一定となる段階です 。この段階では、加工硬化と、高温による回復現象(転位の消滅や再配列など)が釣り合い、安定した変形が続きます 。二次クリープの速度は、クリープ率とも呼ばれ、材料のクリープ抵抗を評価する上で重要な指標となります 。
三次クリープ(加速クリープ)
三次クリープは、最終段階であり、歪み速度が再び増大し、最終的に破断に至る段階です 。この段階では、材料内部に微細な空孔(ボイド)が発生・成長したり、ネッキング(くびれ)が生じたりすることで、有効断面積が減少し、真応力が増加するために変形が加速すると考えられています 。
二次クリープの段階が、部品の寿命の大部分を占めると言われています 。そのため、クリープ試験の主な目的は、この定常クリープの速度を正確に測定することです 。
クリープ破壊に影響を与える要因
クリープ破壊の進行度合いや発生までの時間は、様々な要因によって大きく左右されます。ここでは、その中でも特に重要な要因について解説します。
温度の影響
温度はクリープ現象に最も大きな影響を与える要因の一つです。 温度が高くなるほど、材料内部の原子や分子の運動が活発になり、クリープ変形が進行しやすくなります。金属材料においてクリープが顕著になるのは、一般的にその金属の融点の約半分以上の温度になった場合です。 例えば、鋼材の場合、およそ600℃以上の環境で使用されると、クリープ破壊のリスクが高まります。
応力の影響
材料に加わる応力(単位面積あたりの力)が大きいほど、クリープ変形は速く進行し、破壊に至るまでの時間も短くなります。 高い荷重が長時間加わり続けるような環境下では、クリープ破壊のリスクが高まります。
時間の影響
クリープは時間依存性の現象です。 つまり、同じ応力と温度条件下であっても、荷重が加えられている時間が長ければ長いほど、変形は大きくなり、最終的には破壊に至る可能性が高まります。
材料特性の影響
材料の種類や組成、結晶構造、微細組織なども、クリープ抵抗に大きく影響します 。例えば、ニッケル基超合金や一部のステンレス鋼は、高温でのクリープ抵抗に優れています 。また、合金元素の種類や添加量もクリープ特性を左右します。クロムは高温での酸化を防ぎ、モリブデンは高温強度を高める効果があります 。さらに、材料の結晶粒の大きさも重要で、一般的に結晶粒が大きいほどクリープ抵抗が高くなる傾向があります 。熱処理によって材料の微細組織を制御することも、クリープ抵抗を向上させるための重要な手段です 。
クリープ破壊に至るまでの余寿命評価にはラーソンミラー線図がよく用いられます。解説記事がありますので、そちらも読んで頂けると、より実務に役立てることができると思います。
まとめ
クリープ破壊は、高温環境下や長期間の応力負荷によって、材料が徐々に変形し最終的に破壊に至る現象であり、航空宇宙、発電プラント、化学プラントなど、様々な産業分野において安全設計上の重要な課題です。クリープ破壊を防ぐためには、温度、応力、時間、そして材料特性といった影響要因を十分に理解し、それぞれの環境条件に適した材料を選定することが不可欠です。この記事が参考になれば幸いです。
ご安全に!
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