ボイラーの安全かつ効率的な運用には、適切な水処理が不可欠です。スケール付着と腐食は、ボイラーの寿命を縮め、重大な事故を引き起こす可能性があります。
本記事では、ボイラー水のリン酸塩処理とAVT処理について、それぞれのメリットとデメリット、適用範囲、運転管理上の注意点などを比較、解説します。
リン酸塩処理
ボイラー水のリン酸塩処理は、スケール付着と腐食防止に効果的な水処理方法です。従来のアルカリ処理と比較して、以下の特徴が挙げられます。
1. スケール付着抑制
リン酸塩は、カルシウムやマグネシウムなどの硬度成分と結合して可溶性の錯体を形成し、スケール付着を抑制します。スケール付着は、熱伝導率の低下や水流の阻害を引き起こし、ボイラーの効率低下や故障の原因となります。
2. 腐食防止
リン酸塩は、金属表面に保護膜を形成し、腐食を抑制します。特に、高圧・高温のボイラーにおいて発生しやすい鉄鋼材料の腐食に対して効果を発揮します。
3.メリット
- スケール付着抑制効果が高い
- 腐食抑制効果が高い
- 高温におけるpH緩衝能が高い
- 多くのボイラーに適用可能
4.デメリット
- 処理コストが高い
- スラッジ生成の可能性がある
- 排水処理が必要
5.運転管理上の注意点
- リン酸塩濃度の適切な管理が必要(ハイドアウト・ハイドアウトリターン)
- スラッジの定期的な除去が必要
- 排水処理の適切な実施
AVT処理
AVT処理は、ボイラー水処理方法の一つで、揮発性物質処理 (All Volatile Treatment) の略称でアンモニアと揮発性アミンをボイラー水に注入する方法です。アンモニアはpHを上昇させ、揮発性アミンはスケール形成を抑制します。
AVT処理は、アンモニアと酸素を給水に注入することで、ボイラー内部の腐食やスケール付着を抑制するものです。具体的には、以下の効果があります。
- 腐食抑制: アンモニアが鉄と反応して磁性鉄皮膜を形成し、ボイラー内部の金属腐食を抑制します。
- スケール抑制: 酸素が溶存酸素を消費し、スケール形成の原因となる鉄イオンの酸化を抑制します。
- 熱効率向上: スケール付着を抑制することで、熱伝達効率が向上し、燃料消費量を削減できます。
AVT処理には、大きく分けて以下の2種類があります。
- AVT(R)処理: アンモニアとヒドラジンを注入する方法です。ヒドラジンは還元剤として働き、腐食抑制効果を高めます。
- AVT(O)処理: アンモニアのみを注入する方法です。ヒドラジンを使用しないため、環境負荷が低くなります。
近年では、環境への配慮から、ヒドラジンを使用しないAVT(O)処理が主流となっています。
メリット
- 処理コストが低い
- スラッジ生成が少ない
- 排水処理が容易
デメリット
- スケール付着抑制効果がリン酸塩処理より低い
- 高温におけるpH緩衝能が低い
- 腐食抑制効果が低い
- アンモニアによる銅合金腐食のリスクがある
運転管理上の注意点
- アンモニア濃度の適切な管理が必要
- 銅合金腐食対策が必要
比較
2つの処理方法について比較した表を示します。上述した内容以外のものも含んでいますので、
区分 | リン酸塩処理(PT) | 揮発性物質処理(AVT) |
---|---|---|
特徵 | リン酸塩でpH調整<br>(低PO4は揮発性アミンやNH3支配) | NH₃やアミンでpH調整 |
管理PO4(mg/L) | 0.1~3 | – |
管理pH(ポイラ水) | 8.5~9.8 | 8.5~9.7 |
pH緩衝性 | 緩衝性が高いので海水リーク時対応性が高い | 緩衝性が低いので海水リークに非常に留意が必要 |
スケール付着特性 | 前述の取り、スケール付着速度がAVTよりも遅くなる傾向。 | スケール付着速度がリン酸処理より速くなる、スケールがポーラス(疎)になるので洗浄間隔が短くなる傾向。 |
キャリオーバ発生時 | キャリオーバ時には過熱器/蒸気タービンにNa3PO4のスケールやSCC(応力腐食割れ)発生の恐れが有る。 | 揮発性物質で構成されるので薬剤に起因する影<br>響はない (補給水のNaなどは留意)。 |
環境保全 | T-P,T-N | T-N |
水質管理 | ハイドアウト時には速やかにPO4過剰が無いよう水質管理を徹底させる。 | 前述の通り緩衝性が低いのでCI等の管理(CC監視)が重要 |
備考 | ドラムボイラに限定される | 貫流ボイラでも適用可能 |
最後に
ボイラーの運用・設計条件を元に、適切な水処理方法を選定したうえで、定期的に水質分析を行ない安定運転に結びつけましょう!
ご安全に!
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