高温腐食の一つである、アルカリ硫酸塩腐食について解説します。また、この腐食が進む要因の溶融塩について、概要や用途についても解説しています。用途については、具体例として太陽熱発電システムについて紹介しています。
アルカリ硫酸塩腐食
石炭や重油にはナトリウムやカリウムが含まれていることがあります。これらに石炭や重油中の硫黄が加わると、その燃焼灰中にはアルカリ硫酸塩が存在します。これらが高温下で溶融塩となって腐食を進行させると考えられているのが、アルカリ硫酸塩腐食です。アルカリ硫酸塩が炭素鋼の表面に付着すると、酸化被膜と以下のような反応が生じます。
3Na2SO4 + Fe2O3 + 3SO3 → 2Na3Fe(SO4)3
この腐食のメカニズムとして、高温下で生成する硫酸塩錯化合物が低融点(Na塩は618℃、K塩は624℃)であるとともに腐食性であるという説や、硫黄が遊離して鋼を硫化し、硫化物が再び酸化物となるという、硫化と酸化の繰り返しによって腐食が進行するという説があります。
ちなみに、この記事では硫酸塩に着目していますが、燃料に塩素や窒素が多ければ塩の化合物が異なるだけで、同様の腐食が進行します。これらをまとめてアルカリ溶融塩腐食
まとめると、アルカリ溶融塩腐食は、主に以下のメカニズムで進行します。
- 溶融塩の付着: 高温環境下で溶融したアルカリ金属塩が金属表面に付着します。
- 酸化反応の促進: 溶融塩は金属表面の酸化反応を促進し、金属を酸化させます。
- 保護皮膜の破壊: 通常、金属表面には酸化皮膜が形成され、腐食の進行を抑制する役割を果たしますが、溶融塩はこの皮膜を破壊し、腐食を加速させます。
- 腐食生成物の生成: 酸化反応によって生成された腐食生成物は、金属表面から剥離しやすく、腐食がさらに進行する原因となります。
溶融塩とは?
上述のとおり、アルカリ硫酸塩腐食では付着したアルカリ硫酸塩が高温下で溶融塩状態になることが肝となっています。そのため、溶融塩とはどんなものか、簡単に紹介します。
溶融塩とは、食塩などの陽イオンと陰イオンからなる塩で溶融状態にあるものをいいます。原子力分野では「溶」を「熔」の字に置き換えた「熔融塩」を用いる場合もあります。原子力分野では核燃料や冷却材に溶融塩を利用する研究があるようですね。
また、金属製錬分野では伝統的にフラックスと呼びます。
溶融塩中のイオンは、水溶液中のイオンとは異なりイオンの周りに中性の水分子が配位しないため、陽イオンと陰イオン間の距離が近く、イオン間のクーロン力が強い。このため、水溶液中のイオンとは異なる性質を示すことが多い。これにより次のような特徴があります。
- イオン導電率が高い
- 電位窓が広い
- 密度、粘性率、表面張力が水に近い
- 高温で低蒸気圧
- 他の塩類の溶解度が大、塩類の組み合わせで溶融温度や溶媒特性の調節可能
- 有機溶媒と混和しない
- 化学的に安定、不燃または難燃性大
- 高放射線耐性
- 固体から液体への融解熱が大
溶融塩の用途
上記の特徴から様々な用途で使用されていますが、個人的には院生のころ一緒に研究をしていたポスドクの方が博士を取った時のテーマになっていた、太陽熱発電システムへの利用が印象深いです。溶融塩は、太陽熱発電システム中では蓄熱材や、熱媒体として利用されます。
太陽熱発電は文字通り、太陽の熱を利用して発電する方法です。その熱エネルギーを利用して発電するのが、太陽熱発電です。太陽熱で蒸気を発生させ、タービンを回して電気を創ります。この発電方式は火力発電のタービン式と同じですが、太陽の熱で蒸気を出すため特別な燃料は必要ありません。
太陽熱発電の特徴
コストパフォーマンスが良い
太陽熱発電の大きな利点は、コストパフォーマンスです。太陽光発電の場合は、高性能な太陽光パネルを使用するため導入コストが高くなる上、実用化されている太陽光パネルのエネルギー効率は20%程度といわれています。一方、太陽熱発電は導入コストが安いだけでなく、エネルギー効率は海外の平均的なレベルで約50%と費用対効果の良い発電方法です。
既存の送電網が使用可能
太陽熱発電は熱源として太陽光のエネルギーを用いているだけなので、従来の汽力発電で用いられてきた大型かつ高電圧の交流発電機が使用可能です。そのため、従来型の大規模な送電網に乗せることにも都合が良いといった利点もあります。なお、太陽熱発電は大規模化すると蓄熱して出力を安定化させやすいなど、スケールメリットが効くため、施設を大規模にするのが好ましいです。このスケールメリットを活かすためにも、従来の大規模な送電網は有用です。
広い土地での大規模発電向き
太陽熱発電には、大量の熱エネルギーを集める必要があります。鏡やレンズなどを用いた集熱装置で熱エネルギーを集めるため、それらを設置するのには広い土地が不可欠です。集熱装置を複数設置することで大きな発電量を得ることができ、広い土地を有する欧米では、数万kW~数十万kWレベルの発電所が計画されています。一方、日本では陸地に限りがあり、かつ利用上の競合が多いこと、太陽光発電と同じで太陽を利用することから気候の関係上出力の安定性に不安があることなどから商業運転されていません。
蓄熱で夜間や雨天でも発電
太陽エネルギーを利用した発電のため、基本的に夜間や雨天などは電力を得ることができません。しかし、太陽光発電の蓄電池と同じように、太陽熱発電も蓄熱装置を設置することで、日中に蓄えた熱エネルギーを夜間や雨天時などの発電に利用することができます。
ボイラーと接続して熱を保つハイブリッド式もありますが、それでは燃料を使った火力発電と変わらないため、蓄熱技術の向上が求められており、現在は蓄熱材として溶融塩やコンクリートを使用した蓄熱システムが実用化されています。
最後に
溶融塩腐食の解説だけだとあまりに内容が無さ過ぎたので、溶融塩の紹介や太陽熱発電システムと色々盛り込んでしまいました。この記事が参考にあれば幸いです。
ご安全に!
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